1章 第二手芸部の超越怪姫 2節

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 「部活評価制度」
 この学校にある特有の仕組みのひとつで、簡単に言えば、部活は二ヶ月に一度、生徒会の監査を受ける。
 スポーツ系の部活なら、大会の出場実績、以前、私が入っていた手芸部なんかなら、フリーマーケットやイベントに出した商品の消化率などから、部活がどれぐらい有意義な活動をしていたのかを評価され、その結果、予算や部室の割当が決まる、という制度だ。
 ウチは勉学はもちろん、部活動にもかなり力を入れていて、基本的にある程度の生徒さえ集まれば、自由に部活を作ることができる。顧問の先生も必要ない。その代わり、評価が低ければ部費をもらえないし、最悪、部室すら没収され、その時々の空き教室を申請して借りたり、生徒の家や近くの集まれるスペースに集まって部活をすることになってしまう。
 評価は部活単位で行われるけど、特に実績のめざましい部員に関しては、個別に特別な評価を受け、表彰されたりもする。そしてその際、果たしていつの時代から始まったのか「称号」なるものまで授けられるというのだから、ここは異能バトルの世界かよ、とツッコミを入れたくなる。
 ――まあ、称号は私も持っている訳ですよ。第二手芸部の部長となり、更に一年経った今となっては、吹っ切れてドール衣装を大量に生産しては、それを売ってますからね。しかもめっちゃ売れてますからね。学生がこんな稼いでいいのか、ってぐらいのレベルで。
 第二手芸部の超越怪姫(しゅげーやつ)。それが私の称号ですが、何か問題があります?ありませんよね、あるとか言ったら、お前もドール衣装にしてやろうか。
「あかん……どんどんお姫様から遠ざかっている気がする…………」
 そう言いながらも、私はせっせか姫芽の衣装を作っている。部員のドールたちの服を作るのも楽しいけど、やっぱり自分のドール、特に姫芽の服を作っている時は一番で、私がこの世に生を受けた、その意味を感じることができている気がする。
 だけれども。理想のお姫様を姫芽たちに求めるようになった今といえど、今のリアルの私の生き方は、女子としてどうなんだ、としか思えない。基本、男どもに囲まれているし、どっぷりとオタク文化に浸かった影響か、素でネットスラングを口走ってしまうし、口調もどんどん中性的……いや、キモオタのそれに近づいてきている気がするし。「デュフ」とか「フォカヌポウ」とか口走るのも時間の問題な気がしてきた……。
「しかし、姫はこんな身長あってでかいのにリア充じゃないなんて、オタの希望の星っすよ」
「……岡辺」
「へい?」
「殺されたいか?毛穴の一本一本に縫い針突っ込まれて、全身ハリネズミになって死にたいか?」
「ひぃぃ!?グ、グロはまずいですよ!」
 一応、解説をしておくけど、「身長ある」と「でかい」は重複するように思えるかもしれないが、後の「でかい」というのは、私のバストサイズに関して言っている。つまり死ね。
「自分から望んでオタになったんじゃないし、今でもリア充のつもりだし。後、巨乳に対して発情するのは二次元とドール相手だけにしておけよ。まかり間違って私のに触れたら、ぶっ殺す。物理的にはもちろん、言葉としても触れたらアウトだ」
「ご、ごめんなさい!許してください!なんでもしますから!!」
「だったら退部しろ」
「…………サーセン」
「大体、今更だけど、私としては“第二手芸部”っていう部活名が気に食わん。はっきり言って、無駄に手芸部に対して喧嘩ふっかけてるだけな気がするし」
 しかも、私が抜けた影響ではないと思うけど、あれから手芸部はどんどん衰退していって、今ではほとんど部費をもらえていないらしい。――それ関係のこともあって、非常に現状は寝覚めが悪い。
 ただ、その当時は私も若かったというか、手芸部を辞めさせられて、やっぱりどうしてもムカついているところがあって、復讐心もないことはなかったから……第二手芸部として、こっちこそがレベルは高いんだ、ということをアピールしたかったというところはある。だからと言って、本当にこんなことになるとは思ってもみなかったけど。
「まあ、ぶっちゃけ”第二”ってのはいらない現状ですよね。ウチこそが本当の手芸部みたいな」
「……岡辺」
「は、はい」
「お前、退部な」
「許してください、なんでもしますから!」
「だったら退学しろ」
「…………マジでごめんなさい」
 こんな感じの部員とのやりとりも、たぶん数百回という数を記録している。一日、十回は似たやりとりをしている気がするし。
 現状、この部活が唯一のオタク系の部活ということもあって、確かにここの居心地はいい。今までドールに興味のなかった連中も、私と同じ部活に入りたいからという理由でドールを始めたから、布教の一環にもなっていて、この部活は私にとって理想的な居場所になっている。それは確かだ。
 ただ同時に、いつまでもここにいていいのか、という疑問も生まれてきていた。
「あのさ、部活を廃部にする権利って、部長にあるんだっけ」
 ふと、一応は副部長ということもあり、この手の話に詳しい堂島に聞いてみた。
「そうですけど……まさか、姫…………」
「近々、この部活潰すかも」
『マジですか!?』
「だってさ、正直、発展性ないでしょ、ここ。ドール衣装作るだけなら、別に部活としてまとまらなくてもできるし、私、もう部活やらなくてもいいかな、っていう気がしてきたし」
「ひ、姫、考え直してくださいよ!俺らが悪かったのなら、もっと姫待遇しますから」
「それがウザイ言ってるのがわからんのか、おのれらは」
「うぐぅ…………」
「まあ、具体的にいつそうするのかはわからないし、あんたらが続けたければ続けてもいい。でも、私は部長をやめるし、退部もする」
「そんな……」
 なぜ、急にそんなことを思ったのか。
 それはたぶん、私の友達のことも関係しているのだと思う。
 ――はっきり言って私は、友達を作るのが苦手だ。いや、ドールの世界にはまってから、友達を作れなくなった。姫芽たちの相手をしている方が楽しいし、彼女たちは自己主張というものをしないから、生身の人間を相手にするよりもずっと楽だったから――というのは、間違いなく言い訳だ。本気でそんなことを言ってしまうほど、私は“終わってる”つもりはない。
 理由は、恐れていたんだと思う。私は昔からお姫様に憧れ過ぎていて、理想が高い。人と接する時には、それを隠しているつもりだけど、でも、いつか漏れ出てきたそれに気づいて、私の元を友達が去ってしまうのではないか、と。そう、ずっと恐れていた。だから、新しい友達を作るのが怖かった。昔からの、なんでも話し合える親友が一人いれば、それでいいと思っていた。
 そして、そんな親友が今、陸上部でがんばっている。その姿は眩しく、羨ましくて、文化系、それもオタクの吹き溜まりにいる私が情けなかった。
 でも、そう考えている私に気づいて、私は思った。
 また、私は夢を見ている。と。
 彼女に理想を見て、私をそれに近づけようとしている。それは、お姫様に憧れ、自分自身を可愛い服で着飾っていた時代と、なにひとつとして変わらない。彼女は別に、かっこいい陸上選手に憧れてそうなった訳ではなく、体を動かすのが好きで、その結果、陸上部のエースと言われるようになっただけだというのに。
 結局私は、誰かを基準にしなければ、自分の歩く道すら決められない。それは選んでいるのではなく、与えられているだけだ。
 自分の道を、歩きたい。だから私は、部室を出て、部活の時間帯の校舎を歩いてみることにした。

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